龍
― 変幻自在の霊獣に託された、守りと繁栄 ―
雲を呼び、雨をもたらし、天と地を自在に行き来する龍。
龍は、古代中国の人々が想像した霊獣であり、自然の力そのものを象徴する存在でした。角や鱗、長い胴体といった姿形には細かな決まりがあり、爪の数に至るまで意味が込められていたといわれています。

龍のイメージが日本へ伝わったのは、仏教や漢文化が本格的に流入した飛鳥〜奈良時代とされています。中国では皇帝権力や宇宙秩序と結びついた存在だった龍は、日本ではその権威性よりも、「水を司る力」や「自然を動かす存在感」に重きが置かれるようになりました。
稲作を基盤とする日本の暮らしにおいて、雨や水は生きることそのものでした。そのため龍は、天を支配する象徴というよりも、雨を呼び、土地を潤し、人の営みを支える存在として受け取られていきます。こうした背景から、日本では中国のような厳格な型に縛られることなく、各地の信仰や美意識と結びつきながら、より自由な姿で表現されるようになります。
こうして日本で独自に受け止められた龍は、寺社の天井画や欄間といった祈りの場だけでなく、着物や道具など、日常に寄り添う意匠としても用いられてきました。特別な力を誇示する存在ではなく、暮らしを見守り、災いを遠ざける守りの象徴として、生活のすぐそばに置かれてきたのです。
文様としての龍は、その変幻自在さをいかに表すかが重要でした。うねる胴体の動きや、渦を描くような構成によって、今まさに動き出しそうな気配が表現されています。写実性よりも、力の流れや循環を感じさせる造形が重視されてきました。

本図案では、二匹の龍が向かい合い、円を描くように配されています。このような意匠は「双龍文(そうりゅうもん)」と呼ばれ、互いの力が拮抗し、調和する姿を表したものとされます。対になることで、単なる強さではなく、守り合い、巡り続ける力が強調されています。
龍文様は、強さや威厳を誇示するためのものではなく、変化の中を生きるための知恵と守りを託した文様です。力強く、しなやかで、とらえどころのない龍の姿は今もなお、穏やかな繁栄と無事を願う人々の思いを、静かに伝え続けています。

