南天
— 言葉のひびきに、願いを託した文様
この文様は、明治36年(1903)に印刷発行された木版の図案帖をもとにしたものです。近代へと向かう時代のなかで、伝統的な吉祥意匠をいかに日常の暮らしへ取り入れるか──そんな工夫が感じられる一図といえるでしょう。
南天は、平安時代に薬用・観賞用として中国から伝えられました。冬でも青々と葉を茂らせ、やがて実を結ぶその姿は、早くから人々の目を引き、日本では次第に縁起の良い植物として親しまれるようになります。とりわけ「南天(なんてん)」の名が「難を転ずる」と通じることから、災いを避け、困難を乗り越える象徴として受け取られてきました。
こうした言葉のひびきに意味を重ねる発想は、日本の縁起文化そのものの特徴でもあります。目に見えるかたちに、ささやかな願いや祈りを託す──南天もまた、そんな感覚のなかで暮らしに根づいていきました。正月の飾りや庭木として今も好まれているのは、その名残といえるでしょう。

この図案では、南天の葉と実が簡潔なかたちに整理され、繰り返し配されることで、文様としてのリズムが生まれています。植物を写実的に描くのではなく、特徴だけをすくい取って構成することで、季節や場面を限定しない、使いやすい意匠へと昇華されています。
一つひとつの形に込められているのは、大きな教訓や主張ではなく、日々を穏やかに過ごしたいという素朴な願い。南天文様は、そんな日本人の感覚が静かに息づく、身近な吉祥のかたちなのです。

