貝づくし文
— さまざまな貝のかたちに、調和と良縁の願いを込めて
この文様は、明治36年(1903年)に印刷・発行された木版図案をもとにしています。
明治という時代は、西洋文化が一気に流れ込む一方で、日本の美意識や文様を「きちんと残そう」とする動きも強まっていた頃。職人や図案家たちは、身近な自然や暮らしの中にある美しさを、改めて丁寧にすくい取っていました。
「貝づくし文」も、そんな時代の空気をまとった文様です。
巻貝、二枚貝、突起のある貝、殻の筋や重なり――ひとつひとつ形の異なる貝が、まるで標本のように、しかしどこかのびやかに配置されています。図鑑のように正確でありながら、堅苦しさはなく、自然の造形そのものを楽しむ視点が感じられます。

貝は古くから、その美しい形や不思議な構造によって、人々に親しまれてきました。
中でも蛤(はまぐり)は、対になる貝殻でなければぴたりと合わないことから、仲の良い夫婦や良縁の象徴とされ、婚礼の道具や贈り物にも用いられてきた存在です。
さまざまな貝を集めて描く「貝づくし」という構成自体にも、調和・結びつき・円満といった意味合いが重ねられていたと考えられます。
また、貝は海の中で静かに成長し、長い時間をかけて殻を重ねていく生き物です。
その姿から、繁栄や長寿、積み重ねていく人生になぞらえて楽しまれることもありました。日常の中で使う道具や身につけるものにこうした文様を取り入れることで、ささやかな願いや祈りを添えていたのかもしれません。
写実的でありながら、どこか穏やかで、眺めていると視線がゆっくり巡っていく――
「貝づくし文」は、派手さで目を引く文様ではありませんが、使うほどに、見るほどに、静かな愛着が深まっていく魅力を持っています。
明治の図案家が見つめていた海辺の景色や、貝を拾い集めるような感覚を、現代の暮らしの中でもそっと楽しんでいただけたら嬉しいです。

