seisuke88® KYOTO

— 愛嬌と機知が織りなす、繁栄への願い

この狸文様のもとになっているのは、明治から大正にかけて西陣で織られた帯の裂地です。
さまざまな小さな裂地を集め、丁寧に貼り合わせた資料で、当時の意匠に対する向き合い方を今に伝えています。

それぞれの裂地のまわりには、金紙による縁取りが施されています。金紙で囲うことで、小さな布片ひとつひとつが独立した意匠として際立ち、選び取られた裂地を大切に扱い、じっくりと見比べていた様子がうかがえます。実用品のためというより、意匠そのものを味わい、蓄積するための工夫だったのでしょう。

画面には、草花の間を行き交う狸の姿が軽やかに描かれています。同じ形を繰り返すのではなく、向きや動きを変えながら配されており、どこか物語の一場面を切り取ったような、のびやかなリズムがあります。写実に寄りすぎない、少し愛嬌のある表情も印象的です。

狸は昔話にもたびたび登場し、日本人にとって親しみの深い存在でした。その名が「他抜(たぬき)」――他を抜く、に通じることから、この文様には 何事においても人より抜きん出る という意味が込められています。商売繁盛や学業成就を願う人々に、縁起のよい図柄として好まれてきました。

一方で、こうした身近でどこか滑稽な存在を、あえて帯の意匠として取り上げ、華やかな文様の世界に取り込んでしまうところには、当時の人々の欲張りさと遊び心も感じられます。縁起のよさも、楽しさも、どちらも手放さずに織り込もうとする感覚は、この文様をより生き生きとしたものにしています。

大切に集められ、まとめられてきた裂地を通して浮かび上がるのは、意匠を単なる装飾ではなく、願いや感情を託すものとして楽しんでいた姿。狸文様には、そんな時代の空気と、人の気持ちが静かに息づいています。

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