seisuke88® KYOTO

万寿菊に菊の葉透かし

— 祝いの意味を重ねて楽しむ、近代の文様

この文様は、明治29年(1896年)に印刷・発行された木版の図案帖をもとにしたものです。明治時代は、西洋文化が急速に流入する一方で、日本らしい意匠や文様を見直し、整理し、次の時代へ伝えようとする動きが活発だった時代でもありました。こうした図案帖は、職人や染織に携わる人々にとって、いわば「文様の見本帳」のような存在でした。

画面に繰り返しあらわれる丸い花のかたちは、万寿菊と呼ばれる文様です。菊の花を写実的に描くのではなく、輪郭を簡潔にまとめたこの意匠は、その姿から「饅頭菊」とも呼ばれます。また、琳派の画家たちによって洗練されたかたちが広まり、「光琳菊」という別名でも親しまれてきました。

菊は古くから、延命長寿の力を持つ花と信じられてきました。そこから「万寿」という文字があてられ、長く健やかに生きること、家や暮らしが末永く続くことへの願いが、この文様には込められています。お祝いの場や、日常の中でも縁起を担ぐ意匠として、幅広く用いられてきました。

この文様のもうひとつの特徴が、菊の葉を透かすように重ねた表現です。花だけを主張するのではなく、葉の線を重ねることで、画面に奥行きと動きが生まれています。透かし文様は、重なり合うことで美しさが増していくという、日本の装飾感覚をよく表す技法のひとつです。

また、花と葉が規則的でありながら、どこか軽やかに配置されている点も印象的です。祝意を持つ文様でありながら、堅苦しさはなく、暮らしの中に自然になじむ――そのバランス感覚は、近代の図案ならではの魅力と言えるでしょう。

万寿菊に菊の葉透かしは、繁栄や長寿への願いを、かたちとして静かに重ねた文様です。見るたびに、ささやかな祝福が広がっていくような、親しみ深い吉祥文様として、今もなお受け継がれています。

モバイルバージョンを終了