— 長寿を願う菊と、清らかな水の流れを組み合わせた吉祥の意匠
今回の図案は、明治24年に印刷・発行された図案帖をもとにしています。
「菊水文」は、菊の花と流れゆく水を組み合わせた伝統的な文様で、古くから“長寿・繁栄”を願う吉祥の意匠として親しまれてきました。
菊は、中国で「不老長寿の象徴」とされ、上流に咲く菊に宿った露を口にすれば長生きできる──そんな伝承がありました。日本でもその思想が受け継がれ、九月九日の「重陽の節句」には、菊の花を浮かべた酒を酌み交わし、無病息災を願う風習が生まれます。季節の花を愛でながら寿ぎを願う、その穏やかな祈りが「菊水文」の背景に息づいています。
この図案では、ふっくら重なる菊の花弁のあいだを、滑らかな水の線がすり抜けるように描かれています。水の流れは一定ではなく、太さや勢いを変えながら大らかなリズムをつくり、菊の丸みと対照的な動きを生んでいます。古典的な構成でありながら、どこかモダンで軽やかな印象があるのは、まさに明治期ならではの感覚です。
“花”は豊かさや喜びを、“水”は清らかさと生命力を象徴します。
その二つが寄り添うことで、長寿への願いが自然に重なり、見るほどに心が満ちていくような文様となっています。
静かな菊と、流れる水──古くから愛されてきた吉祥の組み合わせに、明治の図案家が新しい美意識をそっと吹き込んだ、味わい深い一図です。
