— 円がつながり、想いが重なる
この文様のもとになっているのは、大正五年(1916年)に描かれた、西陣帯の図案です。
大正初期は、明治から続く近代化の流れの中で、人々の暮らしや美意識が少しずつ変わり始めた時代でした。西陣でも、古くから親しまれてきた文様を大切にしながら、当時の装いに合う新しい表現が模索されていました。
花七宝は、円形を四分の一ずつ重ねて描く七宝文様をもとに、円の中に花の意匠を配したものです。円が連なり、途切れることなく続いていく様子から、七宝文様には古くより「円満」や「調和」、「人と人とのご縁がつながること」への願いが込められてきました。
「七宝」という言葉は、仏教で尊ばれる七つの宝――金・銀・瑠璃・玻璃・珊瑚・瑪瑙・真珠を指します。これらの宝と同じように、欠けることなく整っていること、つまり円満であることは、七宝と等しい価値を持つと考えられてきました。花七宝の文様は、そうした教えを、やわらかなかたちで表したものとも言えます。
この図案では、規則正しく重なる円の構成を活かしながら、花を配することで、幾何学的な整いの中にやさしい表情が生まれています。繰り返しの中にわずかな変化があり、遠くから見ても、近くで見ても楽しめる構成になっています。帯という限られた幅の中で、全体の調和を大切にした当時の図案づくりの姿勢が感じられます。
円が重なり合い、静かに続いていく花七宝の文様には、日々が穏やかに巡り、繁栄や長寿が重なっていくことへの願いが込められています。大正五年という時代に描かれたこの図案は、変わりゆく世の中の中で、変わらず大切にしたい価値を、装いの中に託したものだったのかもしれません。