— 千の願いを運ぶ、小さな鳥たちの行列
明治36年(1903)に印刷・発行された図案帖に収められていた柄を元にしています。
一見すると抽象図形のようですが、よく見ると、連続する小さな“くちばし”と“羽の丸み”が隠れています。文様の世界では、群れ飛ぶ小鳥のことを「千鳥(ちどり)」と呼び、古くから親しまれてきました。
千鳥は「千鳥=千取り」という言葉遊びから、「目標をつかみ取る」「幸運を手にする」といった前向きな願いが込められ、武家装束や小袖、器物の意匠など、さまざまな場面で用いられています。
この図案の面白さは、そんな千鳥を思いきって抽象化し、“線”と“丸み”だけでリズムを生み出しているところです。鳥の姿を写実的に描くのではなく、飛ぶときのひらりとした動きや、群れとしての連なりだけを拾い上げ、襷(たすき)状に連続させて構成しているのです。ひとつひとつは簡潔なのに、全体を見ると心地よいうねりが生まれ、どこか軽やかな空気が漂います。
こうした「写実を離れて、特徴だけを残す」図案化の技法は、明治の図案家たちが得意としたもので、
“どうすれば機能的で、しかも美しい連続文様になるか”という職人の工夫と遊び心が感じられます。
千鳥自体は古典的で縁起のいいモチーフですが、ここでは伝統的な意味合いに加え、どこまでも続いていく連なりの形から、「努力が続く」「縁がつながる」「運が重なって訪れる」といった、現代の暮らしにも寄り添う前向きなイメージが広がります。
小鳥たちがささやかに飛び交うような、静かな賑わいのある文様。
抽象と具象のあいだを行き来するデザインは、今見ても新鮮で、軽やかな余白の美しさを感じさせてくれます。
