— 西洋の花を、和の感覚で捉える
しなやかに伸びる蔓に、ふっくらとした花を咲かせる薔薇文様。
この図案では、花の重なりや葉のかたちを丁寧に拾いながらも、全体はあくまで文様として整理され、画面に心地よいリズムが生まれています。写実に傾きすぎず、繰り返し使われることを前提とした構成に、意匠としての薔薇の魅力が引き出されています。

薔薇は、西洋では古くから美や愛の象徴として人々に親しまれてきた花です。日本においては、明治維新を迎え、西洋文化が本格的に流入する中で多くの品種が紹介され、庭園や園芸を通じて急速に広まりました。それまでの和花とは異なる姿を持つ薔薇は、近代という新しい時代の空気をまとった存在として、人々の目に映ったのでしょう。
この図案が収められているのは、明治30年に印刷・発行された木版の図案帖です。
まだ薔薇という花自体が新鮮だった時代に、いかにして日本の文様として成立させるか——その試みが、画面の随所に感じられます。蔓の曲線は大きく誇張され、花の配置は間を取りながら整理されており、薔薇の華やかさを活かしつつも、過剰にならない工夫が施されています。
当時の日本では、薔薇はまだ「身近な花」というより、舶来の憧れをまとった存在でした。洋館の庭や植物園で眺めるもの、あるいは絵葉書や図案帖の中で出会う、少し遠い花。
そのままの姿を写すよりも、日本の暮らしの中で使えるかたちへと整える必要があったからこそ、図案家たちは実物を忠実に描くのではなく、線と構成によって“扱える意匠”へと変換していったのかもしれません。
薔薇文様には、美しさや愛情に加え、新しいものを受け入れ、前へ進もうとする気持ちが重ねられてきました。異国の花を和の装いに取り込み、自分たちの美意識の中で咀嚼していく——その柔軟さと前向きさが、この一枚には静かに息づいています。薔薇文様は、明治という時代の高揚と、日本人の意匠感覚が交差した場所に生まれた、象徴的な文様といえるでしょう。